こんにちは、シエスタです。

鉄の光沢は強靭さを内に秘めた美しさを持っていると思います。
例えば「日本刀」は、他の刀剣とは違い、刀身の鉄の美しさを
引き出しているという特徴があります。名刀・業物は、現在は美術品として
珍重されていますが、作られた当時はその美しさに神霊的な威力が宿るとされ、
「鞘から引き抜けば、即ち敵を撃ち払う」効果があると信じられていました。


ところで、僕は最近作中で語っているように、「鉄」という金属に対して、
「透明感」を感じています。そんなふうに見えるからそう思うのですが、
宝石やガラスなど、実際に透明な物質は存在します。では「透明な金属」
というのはどうでしょうか。透明な刀剣があったら、武器としてはスゴイですね。
これは存在しうるのでしょうか。

そこで今回、「鉄の透明感」について。

以下のような説明は、僕の時代の科学ではわからなかったので、
作外で解説させてもらうことにしました。




「金属」というのはそもそもなんなのか。
金属ほか動物・植物などの物質をこれ以上小さく出来ないところまで分解していくと、
それ以上小さく出来ない最小の単位に到達します。これを原子と言います。
原子はさらに原子核と電子群で構成され、原子核の周りを電子が周回軌道を
とることで、いろんな性質が出てきます。
このなかにはFe(鉄)などの金属原子がありますが、金属の性質は1個や2個の
金属原子では現れません。多数の金属原子が、「金属結合」をすることによって
現れるのです。




化学的な結合は、原子の最外殻が重なり合って、物質を安定した状態に再配置する
ことによります。この時、電子を共有しあうのが共有結合で、金属結合はその中に含まれています。
「金属結合」の場合は、多数集まった金属原子が、主に最外殻にある電子を放出し、
結晶全体で共有します。マイナスの電荷を持つ自由電子は集団内を自由に動き、
プラスの電荷を持つ原子核とクーロン力(異なる電荷の間に発生する引きあう力)で
結合します。この自由電子の存在が、金属の電気・熱の伝導性が高いことのの原因であると
考えられているのです。

金属結合では、多数の原子が集まって外殻の電子軌道が重なり合い、
集団全体に拡大します。この時、自由電子を含めた集団が持つ電子軌道群は、
エネルギーバンドと呼ばれる束を形成します。



エネルギーバンドは自由電子ほか外殻の電子を収容していますが、
もともと金属原子の最外殻は空きが多く、このエネルギーバンドも空きスペースが
あります。これは「電子ガス」とも呼ばれる状態で、例えば光が照射されると、電子は
光の波に呼応して振動し、動き回ります。光は透過せず、自由電子によって反射します。
この働きにより、金属の特性である「金属光沢」や「反射率」が生じています。

…つまり、「鉄の透明感」や「透明な金属」というものは存在しないという結論に至ります。
少なくとも「金属」と呼ばれる以上は「金属結合」をしているわけですからね。
金属と自由電子は切り離せない関係にあります。


この自由電子という特徴は、金属の導電性にも起因します。
また、電子ガスの存在により、原子核は位置のズレに対するエネルギー障壁が
少なく、それにより金属素材の展性や延性が生じていると考えられています。

ところで、透明な金属素材がまったく出来ないか、というと…
無論、金属単体ではこれは不可能なのですが、他の素材と組み合わせて金属の特性を
持たせるということは可能で、例えばガラスに金属を蒸着させるなどの方法で、
すでに実用化されている、とのことです。また、ポリカーボネイト樹脂というのは
「透明な鉄」と言われるほどの強度を持っているそうです。